ごあいさつ

有限会社 赤札堂印刷所

 代表取締役社長 小 山 研 一

紙文化は情緒を育む

 

 今さらですが、本当に便利な時代になったものです。

 インターネットで検索してコピペ、ちょっと手直しすればあっという間に一丁上がり。仲間とのコミュニケーションはラインやフェイスブックで何時でも何処でもオーケー。買い物も支払いもネットでなんでもできちゃいます。苦手な英語だって自動翻訳。電子書籍で重たい本を持ち歩く必要も無くなります。

 ペーパーレス化は時代の流れで、ビジネスもデータでのやり取りが中心で、紙に印刷したものは「ハードコピー」なんて呼ばれて、まるで添え物扱いです。

 この流れに乗り遅れるな、とばかりに幼いうちから紙ではなくデジタルの教材を使わせるのが「先進的」という流れまであるようです。

 でも、人間ってそんなに早く変われるのでしょうか。インターネットが世界を変えたといっても、わずか数十年、一人の一生にも満たない間です。また、デジタル機器は無理に幼いころから教えなくても、コンピューターの方が誰でも使えるように進歩しています。

 僕らオトナはみんな紙で育ってきました。教科書やノート、書籍、「紙」というアナログな二次元世界で、ゆっくり、じっくり考えながら情緒・感性を育ててきました。新しい本のインキの匂い、アンダーラインや書き込みで行間が埋まってゆく充実感、退屈な授業中の余白の落書きだって大切な思い出です。古本の余白に書き込みやアンダーラインを見つけると、見知らぬ「同志」を見つけたようでちょっとうれしくなります。

 ボールペンや万年筆など「消せない」筆記具が良いのは、線を上書きして消した跡は自分の思考過程を振り返る大切な記録であり、「下書き」は、とても大切なものだと教えてくれた方もいました。

 一方、デジタルのメディアはスピーディで簡単です。「下書き」なんてマドロッコシイ物は不要です。とても便利で手放せませんが、何だかいつも深く考えないままに即答即決、即興の回答を求められて追い立てられているような気がします。

 インターネットの世界は本当に便利で、私たちの生活を便利に変えてくれましたが、しょせん道具にすぎません。

 便利な道具を手にした我らは、むしろ逆にじっくり、ゆっくり悩んで考えて、それでも決められないことは「まあいいや」と棚上げしておくような余裕を大切にするべきなのかもしれません。

 ペーパーレスは世の流れですが、情緒を育むのは、やっぱり余白や行間があり、書いたら消せない「紙」です。

 人類とは二千年以上のお付き合いの紙文化、印刷の仕事を通じて守っていきたいと考えています。

 

有限会社 赤札堂印刷所

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